来日直前 マーク・レティグ氏への一問一答

篠原 稔和
2014年3月4日

ソシオメディア UX戦略フォーラム 2014 Spring」での講演のために来日するマーク・レティグ氏に、最近携わっているプロジェクト、欧米やアジアでのUXの広がり、そしてUX戦略フォーラム来場者へのメッセージを伺いました。

最近はどのようなプロジェクトに携わっているのですか?

さまざまなプロジェクトに従事してきています。
その中からいくつかのプロジェクトのことをご紹介します。

まずは、「大手食品企業のIT部門」との案件について。某企業のIT部門では、企業内の他部署用のソフトウェアの開発が行われていました。しかし、そのソフトウェアの使いやすさに関して難航していたのです。そこで、当初は「要件収集」のための研修を引き受けたのですが、IT部門がソフトウェアのユーザーサイドからの充分な意見交換を行っていなかったことが判明し、IT部門と営業部門との間でワークショップを開催し、共同で作業をする訓練を行いました。そうしたところ、ITを使った他部署との連携における典型モデルとなるような意見交換や共同作業のためのプログラム設計が実現しました。

また、「安全器具メーカー」との案件に関して。新製品の開発に向けて、製品戦略室が行った現地調査の計画と準備段階での支援を行いました。このクライアントでは、既存製品の改良を目的として、顧客の施設でリサーチを行っていました。新たな需要の開拓を始め、非効率な作業工程、現場での不満、課題のある人間関係、社会的なトレンドなどには目を向けておらず、それらの改革に貢献しました。

そして、今回のアジア出張の直後に開始するものとして、「医療ネットワーク構築」に関するプロジェクトがあります。当プロジェクトでは、医療システムにはたらきかけて、地域医療に関する一連の実験を予定しています。プロジェクトの半分は、クライアントの従業員に設計プロセスの研修を行います。その研修では、当該地域のための設計ではなく、その地域とともに設計を行うように促そうと考えています。そして、家族や学校、診療所などをめぐって、彼らの生活を学ぶことを計画中。また、病院関係者、プロセス・サービスの設計者、地元住民などが集う空間を作るなど、さまざまな斬新な手法やアプローチを実践しようとしています。

欧米やアジアでのUXの拡がりはどのようなものでしょうか?

まず、米国におけるUXでは、下記のようなポイントをあげることができます。

  • 非常に多くの企業で使用されている用語であること。
  • 非常に限られた使い方をされており、基本的にいわゆる「よいソフトウェア設計」、または「よいウェブサイト設計」といった言葉の代わりに使用されていること。
  • 企業がUXを真剣に採用し、会社をあげて取り組む意義を感じた時には、戦略的に認知されるべきものになってきていること。
  • 需要が高くなってきているテーマであること。たとえば、ジャレッド・スプール氏は、将来優秀なUX人材として活躍することが見込まれる中堅人材の養成スクールを開校する予定である(企業のプロジェクトで活躍するにはまだ経験不足だが優秀で積極性のある層が対象)
  • 場所によっては、サービスデザインという呼び方をすることもある。これによりビジネスと社会のどちらの言葉もうまく扱うことができる。

ヨーロッパにおいては、UXの価値、目的、実践が非常に普及しているといって間違いないでしょう。それは、インタラクションデザインやサービスデザインといった異なった名称で呼ばれることも多いです。

アジアについて。UX Hong Kong の進展は著しいものがあります。私はインドからのインターンシップを受け入れており、次々と進展していて、まさに、いろいろなことを学んでいるところです。

日本での講演に来場される皆さまへの問いかけを。

米国人は、日本の学校や会社はとても階級的で厳しいという印象を持っています。
日本では年長者からの指示に従い、長時間働くことが大切で、「失敗」は恥ずかしいことであると聞いています。
目新しく前向きな結果を生むような創造性には、果敢に挑戦する自由や、あえて失敗する自由が必要だと思います。
もちろん、限度はあるのですが、失敗を共有することで、改善のために何が必要かを学ぶことができます。
これがまさに「デザインと創造的プロセスの本質」なのです。

そこで、私から皆さんへ下記のような質問があります。

  • 忠実に指示に従う文化があるという日本に関する米国人の認識は、どの程度本当なのか?
  • もし従順の文化があるなら、企業の多くはその慣習から抜け出せているのか? また世代間の違いはあるのか?
  • 製品と社会変革のために、遊び心のある冒険的な働き方が必要だと提案したら、それは西洋的で日本には通用しない、非現実的で甘すぎる話、として受け取られてしまうのか?

さらに、米国ではクリエイティブなプロフェッショナルの多くが、利益拡大だけを目的とした仕事に不満を表わしています。
環境や人との関係を改善したり、大きなシステムを賢く管理運営する能力を高めようといった活動がとても沢山あるのです。
規模の大小を問わず、デザインや実装について培ったノウハウは他の課題にも応用することができるとされています。
こういった考え方は日本でも通用するものでしょうか?
有意義な仕事を求めて仕事を変える人や、企業内に影響を与え、企業の戦略的展望を変えていくような人はいるのでしょうか?

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マーク レティグ(Marc Rettig)


Fit Associates LLC 創設者であり代表。Fit Associates 社では、文化やデザイン、意思決定の概念などを、会社活動以外の日常生活や個人の理念とにつなげることで、チームや組織に変革を促すようなクリエイティブな体験を提供している。

Marc Rettig 氏は、ソフトウェア分野でのキャリアの後、15年以上にわたって、インタラクションデザイン、製品・サービスデザインに従事。Philips、Nissan、Microsoft、Comcast、Whirlpool、Seagate、SAP、そして、数々のスタートアップ企業など多岐にわたる分野の企業を指導してきている。同時に、ニューヨークのスクールオブビジュアルアーツ(the School of Visual Arts)における「ソーシャルイノベーションのためのデザイン」プログラムの大学院の教員を担当。2003年には、カーネギーメロン大学デザイン大学院のニーレンバーグ教授賞を受賞。また、シカゴのイリノイ工科大学デザイン科(the IIT Institute of Design)でも教鞭をとる。

Marc Rettig 氏は、ソフトウェア分野でのキャリアを皮切りに、エスノグラフィー研究やインタラクションデザイン分野での多大な貢献を行った後、いくつかの課題に直面する。それは、どうすればビジネスやテクノロジーによるイノベーションについて学んだすべてを、社会的・組織的なイノベーションに応用することができるか、そして、チームや企業、組織が、過去の構造やプロセスにとらわれて身動きができなくなる可能性を、どうすれば乗り越えることができるのか、といったものである。同氏は、その答えとなるアイデアと方法論とを、デザイン活動や創造的な活動、組織変革、ファシリテーション、協調デザイン、生命体の理論、自己啓発といったテーマから見い出そうとしている。

ソシオメディアが監訳した書籍『インタラクションデザインの教科書』(Dan Saffer 著)に掲載されている、マーク・レティグ氏へのインタビュー記事を、Google ブックスで無料で読むことができます。
「マーク・レティグ、インタラクションデザインの歴史と未来について語る」