イノベーションへ導くためのUX組織の6つのポイント

篠原 稔和

2016年5月6日

前回の「米GEのUX組織がパフォーマンスする環境」では、米GEのUX組織が5年の間で急速にその成熟度を引き上げてきている背景としての環境要因を探りました。今回は、UX組織を運営している方々や、これからUX組織を核とした変革に取り組もうとしている方々に対して、GEに学ぶべき「イノベーションへ導くためのUX組織」について6つの観点から考察していきます。

1. CXO の存在:UX人材の役員登用 <リーダーシップ>

一番の重要な観点は、経営サイドがUXに関わる人材を担当役員の任においた、といったことがあります。その上で、この役割に相応しいキャリアとスキル、経験をもった最適な人材が充てられた、ということが何を置いても一番の成功要因であるといえるでしょう。同社の CXO(最高エクスペリエンス責任者)であるペトロフ氏は、2011年のGE入社当時は、同社における「唯一のUX人材」としてUXに関わるジェネラル・マネジャーの役割から活動を開始します。そして、2013年に同社の CEO や CMO の信任を得て、役員に就任しました。その時点から、同社のUX人材の採用から、同社のUXフレームワークからデザイン言語やインタラクションデザインパターンの決定に至るまでの全権を任されたことは、同社の特筆すべきポイントといえるでしょう。

2. CoE の採用:UXに最適な組織化アプローチ <マネジメント>

ペトロフ氏が組織的な展開において力を存分に発揮する上で採用されている組織形態に「CoE(Center of Excellence:卓越した拠点)」があります。そもそも CoE とは、大学や公的機関などの研究組織で「優秀な頭脳と最新の設備環境を備え、世界的に評価される研究の拠点」という意味がありました。それに加え、昨今の人事組織の考え方としてのCoEでは、CoE で定めた最先端のルールやポリシーを全社に浸透・監視する役割と、そこで定めた施策を全社や海外拠点、グループ会社などに定着させるための「ガバナンス機能」としての役割が加わります。CoE の採用によって、UXの専門性をもった人材が組織横断的に配置されて全社に展開・運用されていくと同時に、各現場からのベストプラクティスや失敗例の収集や運用などが可能となっているのです。

3. デザインの共通言語化:「GE Design System」と「Industrial Internet Design System」<メソッド>

GEがUX活動に着手した2011年、外部のデザインファーム(frog design)の協力を得て「UX Playbook(脚本、プレーブック)」が策定されます。そこで、UXに関する原理原則・プロセス・スキル・資格認証・各種関連資料がとりまとめられました。その後、UX専門組織の発足によって「GE Design System」として再編・昇華され、現在では、同社内およびグループ会社向けのデジタル上のコミュニケーションスペース「UX Central」から、UXに関する原理・原則、情報交換、Q&A、ヘルプ集などが参照・活用できるようになります。また、同社のコンセプト「Industrial Internet」の発表後は、「Industrial Internet Design System(ビジュアル言語、インタラクションパターン、テクノロジーフレームワーク、によって構成)」として応用されました。これらは、いずれもUXを推進する上での組織内の「デザインにおける共通言語」として機能しています。

4. フューチャーセンターの活用:企業変革を促す施設「デザインセンター」<マネジメント>

前回に、「コラボレーションとクリエイティビティの聖地」として紹介したデザインセンターは、同社のUX活動を全社に普及させるための中心拠点となっています。そこでは、GEのスタッフやパートナーたちが施設に滞在することによって、UXに関わる各種活動の習得やワークスタイルにおける「変革の洗礼」を受けることになるのです。いわば同社における「フューチャーセンター(future center)」として、さまざまな変革やオープンイノベーションによる創造性をもたらす「場」として機能しているといえるでしょう。なお、シリコンバレー地区で起きているメカニズムを意図的に発生させるために欧州で始まったともされる「フューチャーセンター」を、GEがシリコンバレー地区に逆輸入して持ち込んだ状態は、今後さらに注目すべき「場」とその「メカニズム」となっていくかも知れません。

5. ファシリテーターとしての役割:ユーザー起点からの組織障壁のスパニング役 <リーダーシップ>

100人規模となったUX関連のスタッフたちの主な役割には、同社のUXメソッドやデザイン言語の普及啓発や「Industrial Internet」の中核を担う「Predixプラットフォーム」における各種フレームワークの策定と普及啓発といったことに加えて、各種プロジェクトへの「ファシリテーター」としての参画があります。それは、GE版リーンスタートアップである「FastWorks」のワークショップへの関与、「デザイン思考」のワークショップへの関与、そして、各種プロジェクトにおける「フェーズゼロ」としてターゲット顧客の検討などを行う場への関与などです。この状況において、各スタッフたちがファシリテーターとして果たしている役割は、実プロジェクトのリーダーたちに仕えながら各スタッフをユーザー起点へと促すこと(いわば「サーバント・リーダーシップ」)であり、各種の横断する「組織の壁」や企業の「内外の壁」を顧客・ユーザー視点からの架け橋となって取り壊すこと(いわば「バウンダリー・スパニング・リーダーシップ」)なのです。

6. コストではなく投資:企業戦略における最重要の投資課題としての位置付け <メトリクス>

最後に着目すべきは、UX組織が同社の大きな企業変革のための戦略の一環に位置付けられている、といったポイントです。そもそも、同社のUXに関わる研究は「ソフトウェア CoE」の中で開始され、その後に設立された GE Software の中で本格化していきました。GE Software は、2011年に10億ドルの資金を集めて設立され、2020年までにソフトウェア関連ビジネスで150億ドルを稼ぎ出すとされています。そして、事業の核となる基本ソフトウェアプラットフォーム「Predix」が構築され、UXがおおいに貢献することになるのです。そのことから、GEの重要な投資案件の核にあるUXの諸活動は、同社にとっての投資的な位置付けにあることから、今後その活動に対する評価も同社のソフトウェア事業の成否と関連付けてなされていくでしょう。まさに、企業戦略における最重要の投資課題にUXが位置付けられたことは、いかに同社がUXを戦略の要として捉えているかを示す証であり、UXの諸活動とその思想が全社に根付く上での前提となっているに違いありません。


ペトロフ氏の顔写真米GE社のCXO(最高エクスペリエンス責任者)であるグレッグ・ペトロフ氏が来日し、「ソシオメディア UX戦略フォーラム 2016 Spring(2016年5月27日)」にて「GEにおけるイノベーションのためのUX組織戦略」と題した講演を行います。

このイベントは、ペトロフ氏をはじめ、国内外のUX領域のリーダー6名を招き、UX推進組織やUXプロジェクトにおけるリーダーシップのあるべき姿、企業におけるUXの成熟度を向上させる諸活動、UXを活用してイノベーションを実現する推進者の役割、といった内容で構成します。具体的な取り組みの事例やケースの分析、そして、会場内での交流を通じて、UX戦略のあり方を「組織推進」の側面から探り、あるべきUX戦略の方向性を占います。