UXリーダーシップの未来は急進的な変革にあり

UXmatters
2016年5月10日
原文: “The Future of UX Leadership: Radical Transformation” by Jim Nieters and Pabini Gabriel-Petit [2014-10-06](翻訳: ソシオメディア株式会社)

このシリーズでは、ユーザーエクスペリエンス(UX)におけるありがちな問題を取り上げ、中途半端なUXではなく、市場において自社製品・サービスを差別化する、真に素晴らしいUXを提供する企業へと成長を導くにはどうすればよいか考えて行きたいと思います。このシフトを行うためには、企業の幹部やUXチームの取り組み方が根本的に変わる必要があるのです。

このシリーズで伝えたいのは、UXチームの機能の仕方を漸進的に改善すべきということではありません。今までと異なるアプローチを採り、急進的な変革を推進していくべき、ということなのです。安全策から生まれた歴史的な改革などありませんから。とは言え、このシリーズで共有するアイデアの全ては、どのようなビジネスのコンテキストにおいても有効であることがわかっています。このシリーズ最初のコラムでは、三つの主要なポイントに焦点を当てます:

  • UXチームが直面している問題
  • デザイン主導の差別化がどのようにして成功を導くか
  • あなたの組織においてUXをどのように位置付け成功に導くか

UXチームが直面する問題

有能かつ年間数千万ドルもの予算を持つUXチームであっても、過度に複雑で退屈なデザインを生み出すことが多々あります。特にエンタープライズソフトウェアを開発する企業に多いのです。なぜこのようなことが頻繁に起こるのでしょうか?

優れたUXを創ることは、典型的なUXリサーチやデザインができる、熟練したデザイナーやデザインリーダーを雇えば良いといったものではありません。過去のやり方は、今日においてはもはや十分ではありません。UXの分野は、その進化の変曲点に差し掛かっているのです。ですから私たちはステップアップを図らなければなりません。所属のUXチームが生み出すデザインが、一流とは言いがたい、これと言った特徴のないものであることに企業の幹部たちが気づき始めるのも時間の問題です。消費者は、製品のUXの品質に対して高い基準を求めています―そして、期待外れだったときに躊躇なく声をあげます。こうして、会社所属のUXチームが所望の結果を出せていないと幹部たちが考え始めるのは避けられないため、これから以下のようなことが起こりうる可能性があるでしょう。

  • 幹部たちは、社内UXチームに割増手当を支払う価値はないと判断し、UXにおいてレベルの低い(専門家ではない)、デザイン思考に欠ける人たちを雇うかもしれません。多くの幹部はすでにUXチームよりもカスタマーエクスペリエンス(CX)チームとより多く関わる傾向にあるので、UXチームは不要であると判断するかもしれません。このようなケースはすでに起こっています。
  • 幹部たちは社内UXチームを解雇し、代わりに有名なUXコンサルティング会社と契約するかもしれません。
  • 幹部たちは現在のUXチームを解雇し、新しいUXリーダーを雇い、新たなチームを構成させることによって自社の製品が確実に差別化を図れるようなUXを作り、自社を改革させることを期待するかもしれません。
  • 意識の高い幹部ならば、最良のUXの提供を妨げる、数えきれないほどの障害物を自分たちが作ってきてしまったことに気づき、そういった企業文化に対して責任を持って変える決断を下すかもしれません。残念ながら、このようなケースは稀でしょう。しかし、勇気あるUXリーダーならば、企業文化がいかに壁となっているかについて経営陣の意識を高め、組織の変革を掲げて協力を得ることができるかもしれません。

「デザイン主導の差別化」の役割

優れたUXデザインは自社製品を競合製品と差別化し、ブランド力を高めます。UX リーダーとして、我々はこのことを企業の幹部たちに伝えなければなりません。優れたUXデザインは市場において自社製品を差別化し、成功を主導する、価値あるものだと納得してもらえないならば、我々はその会社を離れるべきでしょう。そのような組織に成功の道はありません。UXで製品の差別化が図れることを認識しない組織に残ることはありません。では、UXリーダーとして組織に影響を与えるためには、あなたは何をすれば良いのでしょうか。

組織レベルでデザイン思考を適用する

デザインとは根本的には問題解決の手段です。我々が解決しようとする問題は、時には純粋にUXのデザイン上の問題でしょう。一般的には我々には(さまざまなコンテキストにおいて、そしてさまざまな程度において)発見可能性、学習可能性、使いやすさ、効率性、そして喜びを最適化することが求められています。例えば、自社の製品に魅力を感じてもらうためには、製品に対する感情的なつながりを構築する必要があるかもしれません。あるいは、経験豊富なユーザーには最も効率的な使い方が可能であることを保証する必要があるかもしれません。我々が取り組むデザイン上の問題とはさまざまな要因によって異なります:

  • 製品、サービス、どのドメインか
  • 消費者、企業向け製品
  • デスクトップ、モバイル、クロスデバイス、またはクロスチャネル体験
  • 特定の国・地域のユーザーのための製品
  • スタートアップまたは大企業のサポート製品
  • 組織内のプロジェクトにおいてステークホルダー(利害関係者)がUX及びデザインを理解しているかどうか。(その成熟度によってUX専門家のアウトプットが左右される)

UXの専門家としては、デザイン上の問題を解決するアプローチはコンテキストによります。どのようなUXリサーチにもデザインにも当てはまる万能アプローチなどなのです。我々はまず、取り組むべき課題が何であるかを見極め、その特定の問題を解決すべく、適切なアプローチを選択する必要があります。我々が経験を積むにつれて、デザインに関する課題はより複雑になり、責任も大きくなってくるでしょう。

UXのリーダーとして我々はどのような課題であっても、デザイン思考を適用することができます。UXリーダーの中でも多くの先輩方は、個々の製品やサービス、ソフトウェア・システムだけでなく、UX組織をデザインし、運営までしています。組織をデザインしたりプロセスを考案したりするとき、我々が提供するソリューションは、組織を変革させることができます。例えばUXチームをデザインするなら、そのソリューションとは、共同作業がしやすく全体の構造によく適合し、優れた結果を提供する、また最高経営責任者や幹部たちが喜んで協力できる組織構造でありチームです。どのような課題であっても、我々はデザイン思考を持って取り組まなければならないし、ユーザーや利害関係者を理解し、価値を生み出すソリューションを提供する努力をしなければなりません。

組織に真の変革をもたらし、自社製品の差別化を実現するUXチームを構築するためには、さまざまな要素が揃っていなければなりません―成功を確かなものにするための必要条件です(どういった要素かについては後ほど説明します)。

もしあなたの所属する組織にこの要素がないならば―そして、組織を変えるための努力をしてきたにも関わらず、どうしても達成できそうにないならば―この要素の多くを提供している組織に転職するべきです。そうです、あなたの現在の職を離れるのです。あなたがUXリーダーで、今置かれている状況下で成功できないならば、立ち去るのです。さもないと、チームが出した結果の質及びインパクトの少なさの責任をあなたが取らされることになります―結果の背景にある組織的な理由が何であったとしても。

また、あなたが品質に拘る人なら、品質の高いものを提供できないコンテキストで仕事をすることはあなたを耐えずイライラさせることでしょう。誰も喜ばない悪循環にはまってしまうのです。そうではなく、素晴らしいデザインを作り、みんなを幸せにする、好循環をもたらせる環境を見つけましょう。面白くない課題や平凡な仕事は平均的なリーダーやデザインチームに任せるのです。

我々が関わる仕事の全ては、UX専門家としての我々の資産となります。素晴らしいUXを生み出すこと以外に我々の時間とエネルギーを注ぐべきものはあるでしょうか?我々は「真に優れたUX」以下のもので満足してはいけないのです。

UXが約束する価値を提供する

UXリーダーとしての我々の役目は、製品の差別化をUXに基づいて図るよう、会社の手助けができるUXチームを作ることです。是非とも全てのUX専門家に次のマニフェストに同意していただきたいです:

「我々の目標は革新的なデザインを提供することである。我々の顧客や所属する組織にとって最大限の価値をもたらす、真に差別化されたUXを提供しなければならない。それ以下は許容されない。」

UXの価値について議論する必要はないでしょう。DMI (Design Management Institute) や過去20年に渡り研究を行ってきたリーダー達が教示してくれた事実として、デザイン主導の企業は競合他社より財政的に228%も上回ることを知っています。素晴らしいデザインは、利益率を向上させるのです。

素晴らしいデザインを培うことは、UXリーダーであるあなたのためだけでなく、あなたの部下達や、あなたのチームがデザインした製品を使う顧客、あなたを採用した会社、そして最終的には、UX産業全体にとって非常に重要なことなのです。前述したように、UXは、今、変曲点にあります。 UXを学問としてあれこれ述べるのも良いですが、一貫してその歩みを歩んでいないなら、我々は失敗に終わるでしょう。今こそ、これまで以上に、UXの約束を果たしていく必要があります。それができないのならば、我々は疎外されるに値するのかもしれません。

UXのリーダーとして、我々は最高のデザインエージェントの競合相手となるような企業内UXチームを構築しなければなりません。そしてエージェントよりも優れたUXをデザインしなければなりません。この業界の成功の鍵はこれにあります。顧客を感動させるようなデザインで自社の製品を他者の製品と区別することができるならば、企業における我々の価値は明らかです。差別化は、競争における優位性をもたらし、利益率を増加させ、ブランド価値を高め、企業の株価を上げます。平均的なデザインはブランドではなくコモディティです。UXが約束する価値を我々が提供できないなら、我々に特別賞与を支払えないと言われても仕方がないでしょう。

競争優位性を生み出す

企業がUXチームを雇うとき、幹部らは何を求めているのでしょうか。どの企業も「破壊的イノベーション」を起こすことによって財政的に競合他社の上に立ちたいでしょう。競争力のある差別化は、利益率をより高め、競争優位期間(市場において優位的立場を維持させる、差別化の効果が持続する期間)を拡大させ、高い利益率を維持させます。株価は、現在の収益と利益率だけでなく、将来の収益、つまり予測される競争優位期間をベースとしています。

デザイン主導の企業はより大きな競争優位性を生み出すことは言うまでもありません。UXリーダーとして我々に与えられた課題は、競争的差別化を提供すること、さらには破壊的イノベーションを提供することです。我々のチームが自社製品やサービスの差別化につながるUXを作り出せるように上手く導いて行くことができないなら、我々は失敗したことになります。そして、組織内に存在する壁ゆえに成功を導く手段が何も取れない場合は、我々が充分に影響力を発揮できる別の組織を探し求めるべきでしょう。

「目的」を抱く―自身のため、チームのために

UXリーダーが持つデザインの目標は、平均的あるいは許容できる最低ラインのものであってはなりません。ですから我々は、チームが優れた作品を産み出すのを妨げるような企業文化やビジネスの仕方を固持する企業にいるべきではありません。UXの専門家であるならば、携わる仕事の全てが、ユーザーや顧客のためになり、市場において成功し、会社の繁栄に貢献していると感じたいものです。そしてUXのリーダーとしては、自分の仕事に情熱を持ち、誇りに思える結果を出したいと切に願うようなスタッフを率いたいと思うでしょう。ダニエル・ピンクが “Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us“(邦訳:『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』)で示唆しているように、我々人間を動機づけるのは「目的」なのです。つまり、人のためになることに貢献していると我々は感じたいのです。自分自身よりも大きい何かに貢献している、と。また、人間は「熟達(マスタリー)」を求めます。可能な限り最高の仕事をしたいと思うのです。ですから上司には、素晴らしい結果が達成できるビジョンと計画を持った人物であってほしいし、我々が最高の仕事ができるように責任と自主性を与えてくれるリーダーであることを願うのです。

もし我々が、世界で最も優秀なメンバーでチームを構成したいなら、我々がUXのリーダーとして優秀な上司でなければなりません。リーダーシップの資質を備え、チームに目的を与え、自主性を与え、熟達を促進する、そのような上司です。我々は強力なビジョンと明確な目標を与え、チームが差別化されたUXを提供するための組織構造とプロセスの両方を確立しなければなりません。UXのリーダーが良い結果を出すためにはしっかりしたサポート体制が必要です:トップダウン、すなわち会社の幹部、そしてボトムアップ、すなわち従業員からのサポートです。良いものを創るためには全員がチームとして取り組まなければならないのです。そして、大きなことを達成したいなら、遠回りであったとしても、成功への道があると信じなければなりません。

もちろん、適合性と価値を得るために、UXという岩を山の上まで懸命に押して登る覚悟が要るでしょう。けれども達成できたとき、努力した甲斐があったと思えるのです―たとえ、上り坂でいくつもの傷を負ったとしても! 成功するためのサポートがあるならば、山の麓からのスタートで良いのです。転職を検討する際には、必ず考慮すべき基本的要素がいくつかあります。

組織においてUXをどのように位置付けて成功に導くか

UXのリーダーとして、あなたは自分自身とあなたのチームを組織の中で正しく位置付ける必要があります。あるいは、UXを成功の手段として位置付けたシニアUXリーダーの監督下に入ります。 Jeneanne Rae が彼女の記事 『What is the Real Value of Design (デザインの真の価値は何か)』(Design Management Review, Volume24, Issue4)の中で指摘しているように、デザイン主導の企業が競争相手を確実に凌ぐためにはいくつかの重要な要素があるのです。その中でも最も重要な要素をご紹介しましょう。

UXデザインリーダーと CEO との間の協力関係

デザインが強力な差別化要因である企業に必ずある特徴は、UXデザインリーダーと最高経営責任者(CEO)との強いパートナーシップです。これは、いくつかの点からして非常に理にかなっていることです。

まず、UXの価値を認識し、支持し、さらにあなたのUXリーダーとしてのポジションを支持してくれるCEOの存在は、あなたに物事を成し遂げるための権力を与えます。どんなに素晴らしいコラボレーターであっても、また、リーダーシップスキルが備わっていたとしても、あるいは感情的知性に富んでいたとしても、組織内で十分な権力を持っていないなら、変化をもたらすのは困難です。

デザイン主導で成功した代表的な組織としてよく取り上げられるのがApple社でしょう。Steve Jobs と Jonathan Ive の関係も有名な話です。しかし CEO とUXリーダーの良いパートナーシップ関係を示す例は他にもたくさんあります。IBM もその一つです。 IBM の CEO である Ginni Rommety と IBM の VP(副社長)でありUXのゼネラルマネージャーの Phil Gilbert も強い協力関係を持っています。Rommety は組織横断的にUXデザインを支持し、サポートしています。IBM が新しいデザインラボを開設したとき、Rommety はこのように述べました:「このラボで生み出されるデザインは、これからの世界を変えていくと私は信じています。これは、IBM を超越したイノベーションの伝統継承に再度コミットすることなのです。」IBM では、製品チームのメンバーがUXを無視するものなら、それは自らを危険にさらすようなことなのです。

無論、UX専門家は良き協力者でなければなりませんし、最大の価値を提供するために、優先度の高い目標に取り組まなくてはなりません。しかし、企業幹部のサポート、そしてそれに伴う影響力の付与がないところでUXという岩を押して山を登るのは価値ある試みとは言えないのです。

では、UXデザインにおける価値の良き理解者は CEO でなければならないのでしょうか? 例えば独立したビジネスユニットの副社長で、UXリーダーとそのチームを絶対的にサポートしてくれる、Ginni Rommety と同じような熱意を持っている人がいるならば、その人の直属となればそれで充分でしょうか。充分であるかもしれません。この質問に対する答えは、その特定の企業にとってどの組織構造が最も理にかなっているかによります。

ほとんどの企業は、CEO のサポートを必要とする集権的UXチームから始めます。そしてビジネスの成長に合わせて、いくつかのビジネスユニットに分かれ、それぞれに取締役副社長とUXチームを置きます。その後、再び集権型のUXチームに戻ることもあります。 2007年から2014年の間に、Yahoo 社はこれを2回行いました。こういったサイクルを経験した企業は Yahoo 社以外にも多く存在します。

理論的には、分散型のUXモデルでは、個々のUXチームは常に差別化されたUXをデザインできるはずです。しかし実際は(一部を除いて)そうではないのです。一貫して優れた、そして差別化されたエクスペリエンスを提供するチームはほとんどないのが現状です。成功しているごくわずかなチームは、CEO との強力な連携があるVPあるいはUXのシニアVP、あるいは CXO(Chief Experience Officer:最高エクスペリエンス責任者)のために働くチームなのです。

では、我々は分散型のUXモデルを採用している企業には勤めるべきではないのでしょうか。そうではないです。しかし、各部門におけるUXのVPは必要であることがわかります。UXのリーダーは、企業の中でプロダクトマネジメントやエンジニアリング等他の分野のリーダーと同じレベルの立場でいることが重要です。2007年に Pabini はこのことについて『Sharing Ownership of UX(UXの共有所有権)』という記事を書きました。彼女が示唆した考え方は今でも大切ですが、ソフトウェア開発は随分進化してきたのも事実です。このことについてはシリーズの別コラムで改めて見ていきたいと思います。

UXが組織のトップにおける可視性とサポートを必要としていることのもう一つの理由は、シニアリーダーたちに、あなたがチームにいることに期待感を持ってほしいからです。彼らがその期待感を組織全体に共有すれば、組織横断的に熱意と支持が高まります。あなたが加わることが、組織にざわめきを起こし、幹部を興奮させる、そして幹部がその期待感を組織に広く伝える、といった状況でないのならば、あなたはその会社に入るべきではありません。あなたが舵をとるときは、このような熱意と幅広サポートが必要になるからです。幹部のサポートをバックに新しいリーダーとして立たされるならば、あなたはまず期待する基準を設定し、プロセス変更を推進し、関係を築き、各チームにUXに対するワクワク感を持たせなければなりません。これは喩えるなら短い新婚旅行のような期間ですが、あなたがただの穴埋め社員として雇われたならこのようなことはできません。最低でも、UXのVPであるか、あるいはユーザーエクスペリエンスのVP直属であるかでなければ効果的に組織のUXをリードすることはできないでしょう。

最後に、組織のトップへの定期的な報告の機会とトップの考えを聴く機会が必要です。その組織のトップは、UXデザインが提供できる価値を認識している人でなければなりません。このレベルの可視性とサポートがないならば、あなたはこのレベルを達成するために全力を尽くさねばなりません。自分一人で達成できないなら、あなたが報告できる相手、つまり幹部に注目されるようなレベルの人を雇うように会社を説得するか、転職するかのどちらかです。あなたのビジネスユニットのリーダーは、優れたデザインは、競合他社との差別化を図り、組織に貢献できることを認識していなければなりません。また、技術革新や製品ロードマップと変わらないくらい重要であることを知らなければならないのです。

組織の新しいUXリーダーとして、上司と思想・方向性を同じくしていること、二人の意見が一致していること、また上司があなたと共同で達成しようとしているビジョンについて期待感を持っていることが大切です。もちろん、上司はあなたが計画を実行し結果を出せるということを信じている必要がありますが、感情においても成功に向けて投資してほしいものです。幹部があなたを採用し、あなたのことを高く評価しているなら、その人はあなたの成功に対して感情面においても投資し、必要なときにはあなたを擁護してくれるでしょう。幹部の信頼性というものは、彼らが良い決断を下すのを見て周りの人たちが判断するものです。その決断の一つがあなたを雇うことだったので、あなたが成功することは、彼らにとっての最善でもあるのです。転職先を考えるときはこういった要素を求めなければなりません。

もし先ほど述べたような期待感が持たれているように思えない、あるいはその企業が本当に、優れたUXデザインに基づいて製品を差別化しようとしているのか疑問があるときは、企業の内部の仕組みやリーダーの計画を深く掘り下げるために、あなたを雇おうとしているその企業のリーダーとの関係をしっかり築くべきです。そうして初めて、あなたはあなたが伝えられたことがうわべだけのものか、信頼できるものかを判断することができます。多くの場合、UXリーダーを雇おうしようとしている企業のトップは、UXがビジネス戦略において欠かせないものであると言うでしょう。というのは、彼らの顧客(消費者)がそう望んでいるので、企業としてもUXが重要だという話をするのです。しかし、実際多くはただのリップサービスなのです。おそらく、企業はあなたを騙すつもりではなくて、UXをその企業文化に取り込むことの意味、またそれに伴う変化の度合いについて充分に分かっておらず、素晴らしいUXを生み出すためにどれだけの努力が必要かについて無知であるだけなのです。どれほどの時間とリソースを投資しなければならないのか、気づいていないのです。

あまりにも多くの企業は、優秀なデザイナーを一人確保できれば、自動的に良いUXデザインが手に入ると安易に考えています。あるいは、信頼できるUXのリーダー1人と数名のデザイナーを雇えば、製品のUXに変革をもたらしてくれるだろうと期待します。しかし、製品開発者は500人、製品マネージャーは50人もいたりするのです。UXはそんなに簡単なことではありません。デザイン主導の組織に会社を変えていくためには、会社は進化しなければならないのです――目標を見据え、変革には何が必要かを良く理解しているUXリーダーの助けを得ながら。UXリーダーは、UXチームが成功するための全体の組織構造がどうあるべきかをよく知っています。また、優秀なUXの人材にとって魅力的な企業文化を作り、研究者やデザイナーたちが彼らの能力を充分に発揮できるようにし、組織全体において戦略的なデザイン思考を推進します。

真に優れたUXを常に提供できるよう、どうすればUXをもっと関連付けることができるだろうといった堂々巡りの議論には、私たち(著者)二人とも疲れました。我々は、リードしなければならないのです! UXリーダーは、影響を及ぼす範囲を拡大し、UXにおける変革を起こすために、リーダーシップ術を身につけなければなりません。ですから皆さんも立ち上がって、変革(トランスフォーメーション)を後押しする機会を逃さないようにしてください!

次は?

素晴らしいリーダーとは、さらに、素晴らしいUXリーダーとはどういう人物でしょう。次のコラムではリーダーシップ術について、そして業界トップレベルの人材を引き付け、重役会議室に足を踏み入れ、「平凡」な組織から「優秀」な組織への変革を推進するシニアリーダーとして認められるための具体的な特質やスキルについて述べたいと思います。また、UXチームを率いることが、別のチーム(たとえばエンジニアリングチーム)を率いることとどう異なるかについても具体的に説明していきます。

このシリーズを通して、平均的なUXチームを、群を抜くUXを常に提供するチームへと急進的に変革を遂げるためにUXリーダーがすべきことについて考えていきたいと思います。