「ソシオメディア・フォーラム 2004年2月 Flash コンテンツのアクセシビリティ」

主催:ソシオメディア株式会社
後援:マクロメディア株式会社毎日新聞社
協賛:月刊コンピュートピア、Web Designing月刊ソリューションIT

去る2004年2月23日、東京都港区の TEPIA ホールにおいて、ソシオメディア・フォーラム2004年2月「Flash コンテンツのアクセシビリティ – JIS 化目前に正しく理解する Flash のアクセシビリティ -」が開催されました。

フォーラムの概要

今回のフォーラムは、米国マクロメディア社でアクセシビリティを専門とするシニアプロダクトマネジャーであるボブ・リーガン氏をメインゲストとして迎え、Flash のアクセシビリティをテーマに開催されました。国内からはトゴル・カンパニーの NORI 氏をはじめ、Flash やウェブ・アクセシビリティに造詣の深い方々をゲストに迎え、デモンストレーションや Q&A セッションを行いました。

ボブ・リーガン氏 プロフィール

米国マクロメディア社でアクセシビリティを専門とするシニアプロダクトマネジャー。アクセシビリティに関するマクロメディアの現在の取り組みや将来の戦略について、世界中のデザイナーや開発者とコミュニケーションを取る役割を担う。執筆活動も行っており、著書に『Constructing Accessible Web Sites』、『The Flash Usability Guide』、『Dynamic Dreamweaver MX』などがある。今回が初来日。

マクロメディア社(現:アドビ システムズ社)ウェブサイトのアクセシビリティリソース
英語:http://www.adobe.com/accessibility/
日本語:http://www.adobe.com/jp/accessibility/

第一部 プレゼンテーション「Flashのアクセシビリティ」(抜粋)

プレゼンター:ボブ・リーガン氏(米国マクロメディア社 シニアプロダクトマネジャー)

日本を初めて訪れたボブ・リーガン氏の印象として「日本ではまだ、ウェブのアクセシビリティ指針が標準化されていないにも関わらずこんなに関心を持っている人々が多い。大変驚いている。」というメッセージに続いて、約1時間半に及ぶプレゼンテーションが行われました。

Flash のアクセシビリティに関する定義

Flash 上でアクセシビリティを実現することは、多くの人々に対して素晴らしい利用体験を提供することに他ならない。但し、クリエイティビティがない人には実現不可能。イマジネーションを必要とする仕事である。デザイナーは、障害者がかかえている問題を具体的に把握しながらチャレンジしていく必要がある。

ベストプラクティス

デザイナーは常に、「なぜ、ここで Flash を使う必要があるのか」「HTML で表現できないことを Flash で実現するメリットは何か」を慎重に検討する必要がある。見えていたものが、隠れる演出や徐々に見えてくる演出だけを誇りに感じてはいけない。次のような観点から検討を行う必要がある。

  • アニメーション:点滅していたり、動きがループするようなアニメーションは、ユーザーのコンテンツへの集中力を阻害する要因になる。
  • 構造:今どこにいるのか、そこからどこに行けるのか、をスクリーンリーダーでも把握できるようにすること。サイト構造や操作方法の説明を提供する必要がある。
  • キーボード操作:適宜 tabindex を設定し、Tab キーによるフォーカスの移動順序をコントロールする必要がある。
  • 音声読み上げ順序:デフォルトでは、意図した通りに読み上げられないことがある。
  • キャプション(字幕):ビデオや音声ファイルの音声情報をテキストに書き起こしたものをキャプションとして提供するとよい。
  • :色数を増やさなければいけない、という考え方は誤り。また、色や形の違いを認識できないユーザーのためにテキストも付加するなどの配慮が必要。

第二部 デモンストレーション「アクセシブルな Flash コンテンツ」(抜粋)

プレゼンター:NORI 氏(有限会社トゴル・カンパニー

アクセシブルな Flash コンテンツを制作する際の重要な重要なポイントとして、「スクリーンリーダー対応」「キーボード操作対応」「拡大表示対応」などについて、具体的なデモンストレーションと共にご紹介いただきました。

スクリーンリーダー対応

スクリーンリーダーの正しい読み上げに対応するためには、意味が通じる代替情報を付与しておく必要がある。Flash の「アクセシビリティパネル」を用いることにより、HTML 上の「alt 属性」と同じ要領で代替情報を付与することが可能。

キーボード操作

キーボード操作を行うユーザーへの対応として、制作者の意図どおりに操作可能なタブオーダー(Tab キーを押した際にフォーカスが移動する順序)を設定する必要がある。アクセシビリティ・パネルの「タブインデックス」で移動順序を設定することが可能。また、スクリプトを記述して実現することもできる。

拡大表示

ブラウザの表示サイズ設定に応じて拡大縮小表示が行われるようにするためには、HTML 内の Flash 表示サイズを相対指定(パーセント表示)にする必要がある。

標準UIコンポーネントの例

フォーム内のコントロールなど、標準UIコンポーネントをアクセシブルにするためには、スクリプトを記述する必要がある。Flash MX 2004より対応可能となった。

ビデオテロップの例

動画と同期して表示されるテロップを提供するには、スクリプトを用いる。Flash のテロップ用のコンポーネントは特に用意されていないので、ビデオのタイミングに合わせて表示するように指定する必要がある。

第三部 Q&A セッション(抜粋)

パネリスト

  • ボブ・リーガン 氏米国マクロメディア社
  • NORI 氏有限会社トゴル・カンパニー
  • 秋山正樹 氏富士通アプリコ株式会社
    富士通サイトで様々な角度からアクセシビリティを検証しながら、デザイン決定や運営を行っている。製品紹介に Flash を用いたコンテンツを提供したこともあるが、社内に「富士通ウェブ・アクセシビリティ指針」があるため他社に比べ公開するまでの条件は厳しい。
  • 石川 准 氏静岡県立大学教授
    アイデンティティ、感情、障害などをテーマとする社会学者としての研究活動の傍ら、自動点訳、スクリーンリーダー、音声ブラウザーなどの開発を中心に支援技術の開発者として活動している。ウェブアクセシビリティについても積極的な啓発活動を行っている。
  • 中根 雅文 氏株式会社イメージソース
    W3C 運営スタッフとして活動した経緯をもつ。現在は「Network Accessibility Project(NAP)」運営に関わっており、「コンピュータネットワークをよいものに、つかいやすいものにする」をテーマに、研究会や勉強会を実施している。
  • 進行 植木 真(ソシオメディア株式会社)

パネリストによる Q&A

質問(石川氏):先ほどのデモでは、スクリーンリーダーがチェックボックスのチェック有無といったフォームコントロールの状態を判別して読み上げていなかったようですが、情報がスクリーンリーダーまで来ないのでしょうか。またキーエコーはだいじょうぶでしょうか。
回答(NORI氏):Flash のデフォルトとしてその機能は用意されていないが、スクリプトを記述することで実現できるかもしれない。
回答(リーガン氏):将来的にチェックの有無は識別できるようになります。今現在はまだコンポーネントでサポートできていない。それから、キーエコーは、マクロメディアとスクリーンリーダーの開発ベンダーとの協力が必要で、もし問題があれば日本語のスクリーンリーダーの開発ベンダーと連携して改善していきたい。

質問(石川氏):ロールオーバーはアクセシブルにできるでしょうか。
回答(リーガン氏):幾つかトライしている事例もあるが、現時点では残念ながらまだ十分使えるような状態ではない。今後の課題として、アクセシブルなコンポーネントとして制作者にも容易に使えるような形で提供することが必要だと考えている。

質問(植木):中根さんは以前、「Flash Player をダウンロードしたことがない」とおっしゃっていましたが、現在はいかがでしょうか。
回答(中根氏):まだダウンロードしていない。Flash の表現力については十分理解しているつもりだが、閲覧できるオーディエンスを限定するような方針は健全な姿といえないと思う。

質問(中根氏):Flash コンテンツのサイズを小さくするために、アクセシビリティの実現のための配慮がされている標準コンポーネントを使わず、独自に制作したコンポーネントを使うようなケースが多いと思うが、これではアクセシビリティの高いコンテンツは実現できないのではないか。
回答(リーガン氏):アクセシブルなコンポーネントは、従来のコンポーネントと比較してもサイズはさほど大きくならないので、制作者の皆さんにはそのことをふまえてコンポーネントを使用してほしい。Flash MX 2004 には12のアクセシブルなコンポーネントが用意されているが、まだ十分ではないのでこの数を増やすべく、開発を進めているところである。

質問(植木):秋山さんは、この中では唯一、企業サイトの運営側にいます。運営スタンスに関して教えてください。
回答(秋山氏):Flash でコンテンツを制作して公開することに異論はない。ただし、制作する前にそのコンテンツの目的と効果をよく吟味する必要がある。ベースとしては必ずHTML版を用意させ、アクセシブルなものでなければ、公開してはいけないと考えている。Flash を使用する必然性がない箇所(ナビゲーションやスプラッシュムービーなど)は禁止している。
回答(リーガン氏):必要かどうかを十分吟味したうえで Flash を使用する姿勢は、大変素晴らしい。

会場との Q&A

質問(会場):日本国内では、スクリーンリーダーの対応が遅れる傾向にある。マクロメディア社とスクリーンリーダーメーカー間で連携をとって、Flash の新バージョン発売と同時に対応してほしい。
回答(リーガン氏):そうしたいと考えている。主要なスクリーンリーダーのベンダーとは話を進めている。但し、スクリーンリーダーのベンダー側で対応できる人材が限られているなど、難しい問題も多い。スクリーンリーダーに慣れ親しんでいる人々の声も反映しながら、マクロメディアはベンダーとの連携をとっていくスタンスであると理解していただきたい。

質問(会場):アクセシブルな Flash コンテンツを実現するなら、まず、制作のガイドラインを作成する必要があるのではないのか。
回答(リーガン氏):Flash を使う上では、とても多くの複雑な要素が絡むため、簡単にガイドラインを作成することができない。ただし、現在様々な立場の人から意見を集めており、検討を重ねている。
回答(中根氏):Flash のアクセシビリティを検討する以前に、まず「アクセシビリティ」自体の理解を深めるための活動を進めなければならない。それが先決である。
回答(NORI氏):中根氏の意見に大いに賛成する。アクセシブルなコンテンツを制作することは、デザイナーの「義務」である。技術の問題ではなく、意識の問題であることを、きちんと認識しなければならない。

謝辞

当フォーラムの開催にあたり、後援をいただきましたマクロメディア株式会社、毎日新聞社、協賛をいただきました月刊コンピュートピア、Web Designing、月刊ソリューションIT、そして約150名に上るご来場者の皆様に、改めて深く御礼申し上げます。

今後とも「ソシオメディア・フォーラム」を宜しくお願いいたします。