UIデザインにおける「ユーザーの学習」を考える

川添 歩

2011年11月7日

先日、依頼をうけて日経BP社のサイト「Tech-On!」に、Mac OS Lionについての記事『新しいUIへの挑戦の第一歩』を寄稿しました。
そこでは、iOSとMac OS Lionを比較し、前者がほとんど学習なしで使用することを前提にした使いやすさを追求しているのに対し、後者は学習して使用することを前提に使いやすさを追求している、ということを書かせていただきました。

私たちが各種のサービスやシステムを設計する際にも、どのような人が、どのような経験をもとに使われるものであるかを最初に定義するところから始めます。
ただし、経験は日々更新されてゆくもので、そうして経験が更新されてゆくこと、それが学習です。

どのような学習を前提とするか

一言で「使いやすいシステム」と言っても、目的やユーザーによってそのシステムの有り様は様々です。目的やユーザーが異なれば、どのようなものが使いやすいかは変わるのです。

ユーザーがどのような人か、あるいは目的がどのようなものかを考える場合、ユーザーがそのシステムを利用するにあたって、どのような学習を前提とするかということが一つの指標になります。

  1. 学習不要
    未経験でも、見ただけで使い方がわかり、すぐ使える。ただし、利用できる機能やコンテンツは限定的になる。
  2. 短期間の学習が必要
    しばらく使ってみたり、ガイドや説明を読んだりする必要がある。そういった短期間の学習後は、スムースに利用できる。
  3. 一定期間の学習が必要
    ある程度の期間、ある程度の繰り返しによる学習が必要になる。その代わり、学習後は複雑な作業をスムースに実施することができる。

たとえば公共の場で使われる自動販売機や券売機などは、機械を初めて見る人でもすぐに使えなければ役に立ちませんから、できるかぎり「学習不要」であることが望まれます。
使いやすいシステムの原則のひとつとして、「見ただけですぐに使い方が分かる」というものがありますが、学習不要をめざすシステムでは、そのように作り上げる必要があります。

機能性と学習

では「世の中のすべてのシステムはすぐに使えるよう、学習不要であるべき」かというと、必ずしもそうは言えません。
学習をしないで使うことを前提としてしまうと、複雑な機能を実現することはできません。
また、人間は常に自然に学習をしていく存在ですから、同じシステムを長期間にわたり繰り返し使うことがわかっている場合はむしろ「学習すること」を前提とすべきことも少なくありません。誰でもすぐに使えるようにしてあることが、慣れた人にとってはかえってうっとうしく感じられることはよくあります。
例えば自転車の補助輪。最初は必要な補助輪も、自転車に乗れるようになったらむしろ邪魔なものでしかありません。

とはいえ、幅広い層の人が使うものでは、わずかな短期間の学習で少なくとも主な目的が達成できるように作る必要があります。
家電製品の多くはそのようなものでしょう。電話機やテレビ、電子レンジといったものは、電話をかける、番組をつけたり音量を変える、食べ物を暖めるといった基本的な操作だけなら、たいていの人が説明書も見ずにできるでしょう。それは、それらをかつて初めて触ったときに、それなりの学習をしているからです。「基本的な操作ならできる」のは、基本的な操作は学習済みで、しかもその操作方法がずっと変わらない、からです。
家電でも、今は多様な機能を持っていますので、少し複雑なことをしようとすると、さらなる学習が必要になります。基本的でない部分は、メーカーごとや機種ごとに操作方法が異なっていたりして、学習にも苦労します。家庭では、そうした学習をしてまで得られるメリットがあまりなかったり実感できないために、基本的な操作のみにとどまっていることが多いかもしれません。
しかし業務では、専門性を発揮したり、作業を効率化したりといった、学習するメリットが大きいので、ある程度の学習をすることは前提として設計することもよくあります。場合によっては訓練といったレベルの学習までをも前提とする場合もありえます。

学習の幅を持たせる

もちろん、学習の分量に関わりなく、使い勝手はよいものであるべきです。ただ使い勝手のデザインの方法は、学習の量や内容によって大きく異なってきます。
世の中のシステムの多くは、上記の1, 2, 3のいずれかのみに属しているというよりも、1〜2、2〜3などの幅を持っています。
その幅をデザインしていく方法も、1と2をシステムの中で分けたり(特別な機能は別メニューにする、など)、あるいは使い込んでいくに従って2から3に遷移するようにしたり(慣れてきたらショートカットが使えるようにする、など)、様々です。
システムを、誰が、どんな目的で使うのかということを定義し、そこから、どのような学習をすでにしているか、システムを使う際に、どのような学習をする可能性があるか(してもらうべきか/べきでないか)を考慮することで、UIが決まってくるのです。
システムを学習してもらう方法も、訓練による場合(使う前に学習)と、自然に覚えていく場合(使いながら学習)とでは、デザインが大きく異なります。

誰でも、いつでも、使いやすいシステムを作る、ということはできません。
「誰」「いつ」という定義をする必要があり、そこには常に「学習がどのようなものであるか」がついてまわります。

ただ、ひとつのシステムの中に、すぐに使える部分と、学習を要する部分との両方があるような設計もありえます。基本的な機能はすぐに使え、慣れてきたらだんだん複雑な機能も使えるようになる。世の中の多くのシステムはこのように作られています。

iOSにみる学習効果のデザイン

iOSは「だれでもすぐ使える」と言われます。
しかし、iOSのタッチUIは、必ずしも「見ただけですぐに使い方が分かる」ようにはなっていません。
iPhone発売当初、初めてiPhoneを見るという人に、何の説明もせずに「どうぞ触ってみて」と渡してみるということをよくやっていました。
そうすると、起動画面からまず戸惑うことが少なくありませんでした。
画面のあちこちをタッチするのに、それだけでは何も起きない。ロックを解除するためには、指をスライドさせる必要がありますが、その操作が思いつかなかったのです。
画面上のボタンに触れて操作するということは見ただけで予測できても、ドラッグやフリックといった操作ができることは、見ただけでは予測できません。
iOSのロック解除ボタンは、いかにもボタンが動きそうな溝があり、文字がボタンをスライドする方向に流れ、ボタンを動かすことをかなり示唆するデザインになっていますが、それでも、タッチパネル上でタッチ以外の操作をしたことのない人にとって、それは予測外のことだったのです。
しかし、しばらくタッチしているうちにちょっと指が滑ってわずかにボタンが横に動くことに気づく人がいました。それで気づかなくても、一度どうやればいいかを見せれば、その後は、操作の仕方を忘れてしまうということはありません。
「見ただけで使える」のではなく、「触ってみることで使えるようになる」。非常に短期間で強力な学習。
iOSの使いやすさの理由は、この優れた学習効果にあります。

そしてこのような強力な学習効果は、UIデザインにおける、的確で一貫性あるフィードバックの賜です。
指をスライドさせることで、その下にあるモノが動く。
それは、iOSを使う前から、ユーザーがすでに経験していることです。机の上の紙に指で触れてそのまま動かせば、紙は指とともに動きます。
それと「同じこと」が画面上でも起きるので、ユーザーは新しい操作方法を記憶するのでなく、すでに学習していることと画面上で起きていることを結びつけるだけでよいのです。
ここで非常に重要なのは、現実と同様だと認識させることです。そのためには、指の動きに画面や画面上の要素がぴったりくっついてくるということが絶対に必要です。一秒の何分の一かでも指の動きとずれてしまっては不自然になり、「現実と同じ」と認識されません。iOSはその点、実に自然な動きをするように作られています。

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