オブジェクトのマルチ表現

ユーザーの操作対象となるオブジェクトを、状況に応じて異なる表現方法で提示する。
理由:扱うオブジェクトの粒度を作業の段階によって変化させ、目的にあった操作を可能にするため。

図例
ひとつのオブジェクトを複数の表現方法で提示する

効能

  • コンピュータで扱うオブジェクトは、概念的で、多数の属性情報を持っていることが多い。それらのグループ(クラス)を認識し、個別例(インスタンス)を区別できるようにすることで、ユーザーがこれらを思いどおりに扱う手がかりとなる。
  • クラスの管理、インスタンスの集合の管理、特定インスタンスの内容の編集など、ユーザーの操作段階によって扱う対象の粒度(詳細度)を変化させることで、目的が達成しやすくなる。
  • 今見ているオブジェクトが何で、どの程度の粒度で示されているのかを把握できる。
  • モードレスインタラクションにおけるオブジェクト指向のコンセプトを体現できる。

用法

  • データオブジェクトのインスタンス(一件のメールなど)を、画面の操作目的に合わせて、アイコン、リスト内項目、データグリッド内項目、詳細表示ペインといった表現で提示する。
  • 表現が変わっても同じオブジェクトを表していることが分かるよう、アイコンや名称といった基本的な属性を常に表示に含める。
  • アイコンは、オブジェクトのクラスを表す場合(Excel 書類のアイコン、フォルダアイコンなど)と、特定のインスタンスを表す場合(画像ファイルのサムネール、アプリケーションアイコンなど)がある。同一クラスのインスタンスの集合を表示する場合は、アイコンでクラスを示し、名称でインスタンスの個別性を表現する。

図例
オブジェクトのマルチ表現のモデル例

注意

  • あるオブジェクト表現にどの程度そのオブジェクトの属性を含めるかは、その画面の要件に依存する。一度に見せる属性が多いほどよいわけではない。むしろ最小限にする方がよい。
  • アイコンがクラスを表す場合、そのアイコンをユーザーがクリックした時などに、クラスに対する操作とみなすか、インスタンスに対する操作とみなすかは、注意深く検討する必要がある。できるだけ両者の振る舞いが混在しない方がよい。例えば顧客リストがあって、各行に「顧客アイコン」がついている場合、これは顧客インスタンス一人分を表すことになるから、同じアイコンを「顧客一覧」を呼び出すボタンなどに使用しない方がよい。

蘊蓄

ひとつのオブジェクトを状況に応じて複数の表現で見せるという方法がうまくいくのは、我々人間の「記号に親しむ」特性を利用しているからである。そもそも我々は言語という記号を使って、話題の対象を状況に応じて色々に表現し、複雑な情報を伝達している。しかしある表現がどの対象物を指しているか明らかでなければ、情報は伝わらない。