「UPA 2005 カンファレンス参加報告」

2005年6月27日から7月1日の5日間、カナダのモントリオールにおいて、第14回 UPA(Usability Professionals’ Association)カンファレンスが行われました。年に一度のカンファレンスには世界各国の企業、コンサルティングファーム、研究・教育期間などから多くの専門家たちが集まりました。

参加者の延べ人数は約500人。19のチュートリアル、6つのワークショップ、50以上のプレゼンテーションやディスカッションなど、豊富なプログラムが展開されました。

今年のテーマは「Bridging Cultures」

様々なツールを対象としたユーザビリティの確保が各国共通の課題となっている中、専門家には、異なる状況や文化に対応するための広い視野と見解が求められています。今年のカンファレンスでは、そうした背景を反映した「Bridging Cultures(異文化間の架け橋)」をメインテーマに、多くの研究発表が行われ活発な議論が交わされました。

参加者の延べ人数は約400人。5日間の期間中、23のチュートリアル、7つのワークショップ、36のプレゼンテーションを中心に、ポスターセッションやパネルディスカッションなどを含む豊富なプログラムが展開されました。

ユーザビリティは、ものづくりにおいて必須となる継続的な取り組み

多岐にわたる発表内容を通して感じたことは、ユーザーにとっての利便性を中心に製品やサービス開発を行うというユーザビリティの考え方が、米国ではすでに、企業のデザイン戦略、制作や運営の組織づくり、ユーザー分析、コンセプトモデリング、プロトタイピング、テスティングといった一連のサイクルを繰り返す、ものづくりにおける必須のプロセスとなっているということです。

開催地であるモントリオールは、英語圏にありながらフランス語を第一言語とする都市であり、カンファレンスでもフランス語によるセッションが設けられるなど、つねに「異文化」が意識される環境での実施となりました。

「ユーザビリティ」はすでに当たり前の取り組み

ユーザビリティを実現するための手法として、各国で広く UCD(ユーザー中心設計)/ HCD(人間中心設計)メソッドが採用されています。UCD メソッドとは、ユーザーの動向をもとに要求分析を行い、画面やインタラクションのデザインをプログラム設計より先行して行う設計方針のことで、完成までの間にユーザビリティ評価を繰り返し行うことが特徴です。

UCD メソッドに代表されるユーザビリティの活動形態は、欧米を中心にすでに成熟期を向かえ、その手法も淘汰された状態にあるようです。あるセッションでは、「UCD メソッドを実践している」と明言する人の割合が7割を超え、議論の中でも積極的に独自の体験を語っていました。また、特定企業内で活躍するいわゆる「インハウス・コンサルティングチーム」に属する参加者が多かったことからも、欧米でのユーザビリティ思想の浸透度の高さを伺い知ることができます。

UCD メソッドの実践から生まれた3つのアイデア

とはいえ、実際に UCD メソッドを実践する際には、作業工程全体が複雑になるうえ、多くの時間がかかってしまうといった問題が生じる場合があります。今回のカンファレンスでは、そのような現実的問題を解決するために、UCD メソッドのメリットを活かしながら、さらに「敏捷性」や「柔軟性」に配慮したシステム開発の重要性が強調されていました。

その一方で、ターゲットユーザーや利用環境が多様になるのに伴い、テスティングの手法にも多くのバリエーションが考えられるようになってきています。インターネットを経由したリモートテスティングの手法をはじめ、移動式の簡易ラボの設計、広範囲なオンラインアンケート手法、障害者用の支援機器や特殊デバイスによるテスト手法などの研究がさかんになっています。また、テスト結果の分析方法やテスト被験者のリクルーティングについてのノウハウも注目されています。

そこで今回注目を浴びていたのが、UCD メソッドを実践する専門家から提案された次の3つのアイデアです。

  1. システムの性質に応じて必要なプロセスだけを用いることで、開発期間や必要なリソースを最低限で済ませる。具体的なタイムスパンや必要なアウトプットを定義しながら、作業のパターンを作っておくことがポイント。
  2. 要求分析やタスク分析のためのツールを積極的に利用する。それにより、複数名の開発メンバー内で情報共有をしやすくしたり、テクニックの違いによる分析結果の差異が小さくなる。
  3. システムの実装を最初で最後の到達点とせず、その後の修正をあらかじめ想定した柔軟性のある開発手順を用いる。それにより、開発期間に発生した問題と実装後に発生する問題を、効率よく繰り返し修正することができる。

これらのアイデアは、「User-Centered Design (UCD)」はもとより、「Contextual Design」「Rapid Contextual Design」「Agile UCD」などといったテーマとともに展開され、多くの聴講者を集めていました。その内容については、当ページ内の参考資料も合わせてご覧ください。

さらに今後期待される取り組み

今後は日本国内でも実践と経験を重ねながら、ユーザビリティに関わる方法論の再検証をはじめ、より効率よく開発を行うメソッドが検討されていくことが予想されます。そして最終的には、ユーザビリティの概念を「社会に広く示すべき企業の思想」に取り込むための具体的な施策が重要課題となるでしょう。

また、「ユーザビリティ」という概念そのものにも変化が見受けられます。「企業のブランドイメージを向上させたり、単純にユーザー層を拡大するための手段」という位置付けから、「ユーザーを支援する一方、組織の思想を分かりやすく強調し、その組織の社会的な責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を体現するためのツール」と捉える考えが共通認識となりつつあるようです。

さらに、あるアクセシビリティの専門家が「『It’s accessible but not usable』では何も意味がない。必要なのは、そのシステムを『社会的な利用価値』という視点で分析し、実現すべきことの優先度付けを行うこと」と語り、多くの参加者から共感を得る場面がありました。ユーザビリティと併せてその意義を考えることで、アクセシビリティの位置づけに対する再認識も進んでいるようです。

来年の開催はブルームフィールド

毎年開催される UPA カンファレンス。来年の開催は2006年6月12日から16日まで、場所は米国コロラド州のブルームフィールド。テーマは「Usability through Storytelling」が予定されています。

ソシオメディアは、継続的に海外のコミュニティにも積極的に参加しながら、インタラクティブメディアのデザインについて最先端の研究を続ける人々との交流を通し、そのノウハウを吸収していきたいと考えています。

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