「製造業のためのUIデザイン ガイドラインと事例」セミナーレポート&講師インタビュー

藤井 幸多
2026年7月7日

2026年5月25日にソシオメディアはオンラインセミナー「製造業のためのUIデザイン ガイドラインと事例」を開催しました。製造業においては近年、IoTやAIの活用といったDXが進んでいます。一方で、それらを支える「画面」の設計や使われ方については体系的なノウハウが十分に共有されていないのが現状です。本セミナーでは、監視・制御システムのUIを中心に、人が設備の状態を理解し、安全かつ確実に操作できるようにするためのガイドラインを、多数の事例を含めて解説しました。

今回はセミナーの様子と、講師の一人である原へのインタビューをあわせて紹介します。

セミナーの内容紹介

セミナー冒頭、原より製造業むけのシステムの概略と、そのソフトウェアの重要性が解説されスタートしました。

「製造業で用いられるソフトウェア」の様子

監視制御システムUIの歴史

「監視制御システムUIの歴史」の様子

まずは、上野より監視制御システムUIの歴史の振り返りです。1960年代の物理パネルの時代からCRTとテキストUI、ミミックパネル、初期グラフィカルUI、Windows型を経て、ウェブ、モバイルの時代へと変化していった様子を紹介しました。現在ではユーザーインターフェースデザインやインタラクションデザインと呼ばれる、操作デザインの重要性が認識されるようになった転換点を解説。航空機や原子力発電所の事故調査によって、「ヒューマンエラー」から「ユーザーインターフェースデザインの問題」へと認識が変わっていった点について取り上げました。また、複雑もしくは危険性の伴う大規模な装置や機械を監視・制御するシステムのデザインは「人間のための操作のデザイン」であり、その歴史はユーザーインターフェースデザインの思想の歴史そのものであるとし、この分野に取り組むことの意義深さを語りました。

ガイドラインと事例

その後、原より本編の「ガイドラインと事例」です。製造業特有の要件を整理し、具体的な事例を挙げながら、4セクション計29項目のデザインガイドラインを解説しました。

本編「ガイドラインと事例」の様子

1. トラブルを未然に防ぐデザイン

最初のセクションは「トラブルを未然に防ぐデザイン」です。

画面を例に、「設備を稼働させようと思ったら停止させてしまう」といった誤操作を、未然に防ぐための観点を解説。また「現在の状態を示すこと」についての重要性について強調し、監視対象を管理するシステムの例を紹介しながら、タワーライトをメタファーにした点など、設備の状態を表現する上で見るべきポイントを解説しました。

続いて、警報に対して適切にアクションを取るために、どういった点をわかりやすく示すべきか、何を表示し、何を表示すべきでないのかについて解説。また、操作する人の熟練度を考慮してデザインするためには、現場の知識を活用することがポイントであるとしました。データを視覚的に表示する、ダッシュボードやグラフ、インフォメーショングラフィックのデザイン事例を取り上げ、業務上の目的に即したデータ表現の工夫を解説しました。

そのほか、識別しやすい色、グラフと表の連携、危険を伴う作業の「保存」をどう考えるかについて指針を示しました。

2. 誰でも使いやすいデザイン

休憩を挟み、続いては「誰でも使いやすいデザイン」のセクションです。

作業内容の理解を助けるイラスト、装置設定の順序に応じたデザインの工夫、複雑なプログラマティックな設定をわかりやすく整理する考え方、一貫した操作性について、具体的なシステムの事例やレイアウトパターンを示しながら解説しました。

また、専門知識と経験を要する製造業の現場において課題となっている「業務知識の継承や育成」の必要性について取り上げ、それに対応したデザインの工夫を紹介しました。

そして、1つの工程で複数の設備を使う作業者が、スムーズに作業を行うための工夫や、ユーザーにとって意味のある形でデータを提示することの重要性を解説しました。

3. 様々な要求に対応するデザイン

次のセクションは「様々な要求に対応するデザイン」です。

現場ごとのカスタマイズ性をどのように扱うかについて解説しました。制御パネルを例に、運用することで変化する要求への対応を紹介。医療用機器を例に熟練度や担当部署の異なるユーザーへの対応を解説しました。また、スキャンを行うデバイスを例に、頻繁に行う設定を使いやすくするために工夫すべき点を紹介しました。

4. 業務を変えるデザイン

4つ目は「業務を変えるデザイン」についてです。

急速に発展しているAI、MR、ARなどの活用について、UIデザインの視点から解説しました。プラント診断サービスや医療用システムで取り入れられているAI機能を取り上げ、人間とAIの分担を解説。MR機能を用いる際に、現場作業者を適切にサポートするための注意点を挙げました。さらに、仮想空間を用いたシミュレーションで制約を乗り越えるための工夫を解説しました。

最後に、どのような技術であっても、現場の使われ方を起点に考え、デザインを改善していくことの重要性を強調しました。

質疑応答

質疑応答では、産業用システムならではの配色や独自カラーを決定する過程に関する質問や、機能優先でUIデザインが後回しにされ、使いにくいものが作られてしまうことを回避するために適したデザインのタイミングについての質問が寄せられました。

インタビュー

改めて製造業を支える重要なシステムのUIデザインについて、講師を担った原に話を聞きました。

藤井 幸多(以下 藤井):これまでに関わったデザインプロジェクトはどういったものがありましたか?
原 正樹(以下 原):大きく分けると軸は2つで、1つ目は学術コンテンツ系です。論文、研究、図書館情報に関するシステムのデザインです。
2つ目は設備系のシステムのデザインです。こちらは、工場設備、建物管理。監視や制御システムのデザインになります。
組み込みやデスクトップの専用アプリもあれば、クラウド化の流れでウェブブラウザで使うものも多いです。作業員の方が手元で使うスマートフォンやタブレット向けのアプリも増えてきていますね。また、各システムのUIのコンサルティングに加え、組織的にデザインを進めるためのコンサルティングとして、設計者に対して啓発や教育を行い支援しています。

藤井:大学でも教える機会がありますよね。
:学生に対して、ユーザビリティ、ユーザーエクスペリエンス、サービスデザインと、呼び方は様々ですが、人を中心にデザインする考え方とデザイン原則などを教えています。リサーチ時のインタビューのやり方やユーザビリティテストの方法も含め、そういった概念に馴染みのない学生に教えています。平面のグラフィックデザインを入り口にして、ソフトウェアのデザインに興味がある学生が参加することが多いですね。

監視・制御系システムのデザインの特徴と難しさ

藤井:様々なプロジェクトに関わってきた原さんからみて、監視・制御系システムのデザインの特徴はなんでしょうか?
:まず、業務や設備に与えるインパクトが大きいことです。システムを操作していてミスをした時に、それがそのまま大きな事故につながりかねない、という特徴があります。オフィスで使うシステムであれば、手続きをやりなおすことになったり、金銭的な損失が出たりすることもありますが、工場で使うシステムでは大怪我をしたりする可能性があります。設備と直結しているので、製造機械が壊れると何千万、何億といった損失が出るので、事業に対するインパクトが非常に大きいというところがあります。
また、専門性が高いことも特徴です。製造プロセスなど操作の前提になる知識が必要になってきますね。画面の中で出てくる数値の意味、プロセスの意味など馴染みのないものが多いので、勉強しながら作っていくことになります。そのほかにも、ユーザーごとに要求の単位が様々といった特徴があります。

藤井:要求の単位というのはどういったものになるのでしょうか?
:例えば工場単位とか製造ライン単位であったりで、数値や状態の重要度が変わってくることがあります。ひとつのアプリケーションを設計している中でも複数の異なった、時には相反するような要求が挙がることもあるので、要件のヒアリングや整理には気をつかっています。そのほかには、生産性に直結していることも挙げられますね。単なる情報表示ツールではなく、判断や対応によっては、ラインが止まってしまったり、不良品が出てしまったり事業に対する影響が大きいという特徴があります。

藤井:実際にデザインする上での難しさはありますか?
:デザイナー視点で言うとやはり扱っている業務の中身にまったく馴染みがないことが多くて難しいです。実際の生活から推測しやすい領域もありますが、一般的なイメージと実際は全然違うことの方が多いですね。デザインの中で、そのやり方が本当に効率がいいのか、その先により良い操作やUIがあるのではないかと考えることがありますが、専門性の高いシステムの場合、分業によってユーザー自身は全体の一部分のみしか把握していないという難しさもあります。システムの企画担当者、大抵は現場のユーザーとコミュニケーションをとっている人が多いですが、そういう人と相談しながらシステム全体の視点で捉えていく必要もあります。また、導入された設備は10年、20年使われることもあります。利用者はそれに慣れていることを考慮しつつ、あるべき姿を検討する難しさがあります。

藤井:デザインすることで明らかになることはありますか。
:最初のデザイン案で正解が出ると考えていません。例えばある作業の効率があまりにも悪そうだなという、匂いというかそういった疑問があった時、検討してみるとやはり最適じゃないことが判明することもあれば、逆に専門的な視点では必要なことがわかったりすることもあります。デザイン原則的にはこれはないだろう、というようなものであっても実は必然性がある、ということもあるので常に試行錯誤しています。

藤井:専門性が高いのでプロパティの種類や値が細かくて多いですよね。マルチペインのレイアウトでデザインする複雑さもありそうです。
:そうですね。それに加えて、持ち運びできる専用デバイスや壁に備え付けのデバイス、設備についているものなどの場合は、逆に表示できる情報が制限されるので、どの情報を見せるべきか、悩みながら検討しています。

ガイドラインだけではなく一緒に作る

藤井:組織支援に関して聞かせてください。
:デザイナー、もしくは兼業でデザインを担当している人への支援が中心です。デザインガイドラインなどの整備は、広く捉えると開発の方々に向けた支援として考えています。工場にはいろいろな種類の設備があって、それぞれに専門性の高いシステムが付属しています。大規模なメーカーの場合、設備ごとに開発するセクションが分かれていたりすることもあり、何もしないとデザインがばらばらになってしまいます。そのためデザインマネジメントが重要になり、そういったことを行うチームに対して支援を行う必要性が出てきます。

藤井:それを実際に行う上で色々な苦労もあると思います。例えば、専門性が高くそれぞれ分かれているものを統一するためのガイドラインを作る時、統一のための抽象度をどこに持つかなどがありますよね。
:そうですね。要件が様々というところにも関わりますが、専門性の高いものが数多くあります。ですから、「デザインガイドラインがあるからそれに従ってそれぞれで作って」というだけで統一できるものではありません。実際に製品のデザインを担当する人と、デザインマネジメントを専門にやっている人が一緒に作ることによって、考え方や思想の統一を図っていくプロセスが必要になります。

気をつけてみると、街中で色々なメーターを発見できる

藤井:原さんは社内ミーティングで、街の中にある機器を観察して共有してくれることがありますよね。なぜ注目するようになったのでしょうか。
:やはり設備系のシステムのデザインをやっている影響が大きいです。画面のUIにおける情報の表現方法は、物理的な機械や装置に付属している計器の表示を元にしていることが多くあります。そういう物理的な機械のUIがどうなっているのかというのは興味があって、街中で見かけると気になって見に行ったりするようになりました。

街中で見かける様々な機器

藤井:見るだけでなく機能を紹介してくれていますよね。
:専門性が高いという話ともつながるんですが、見ただけではその機器が何をやっているかわからないんですよね。数字やランプがついているけど、これは一体何だろうと。そういうのは説明書を探して読まないとわからないんです。ガスメーターの検針の人とか気になりませんか。あの人はメーターのどの部分を見て何をしてるんだろうとか。気をつけてみると、街中で色々なメーターを発見することができます。

藤井:原さんの話を聞いてから、街中を探すようになりました。ただ、やはり外から見てもわからない。型番とかを見たりしますか。
:そうですね。型番やメーカーのロゴがあるので検索して、運が良ければカタログとかマニュアルを見つけることができます。

藤井:あともう一つ聞きたかったことがあって、原さんと言えばゲームなんですけど、工場系のゲームをやっていると言っていましたよね。材料を管理するためのスプレッドシートを作っていたり、緻密にプレイしている印象があります。
:そうですね。工場自動化ゲームというのはマップに埋まっている資源から何か製品を作って、また別の製品と組み合わせてより高度な製品にしていく、みたいなことをやるんですが、私がスプレッドシートでやっているのは、細かく無駄なく資源を活用するための管理ですね。現実の工場で言えば製造管理をしていることになるでしょうか。

藤井:つい見てしまうポイントとかあるんでしょうか。
:そうですね。液体や熱を扱うゲームがあって、パイプの中を流れる流量を表すメーター類が細かく作られていることがあります。そういうのを見て現実と同じだとか、こういう表現もあるのかなど参考として見てしまうこともあります。あとは、やはりゲームは現実より単純だなと思ったり。「外乱」とか「歩留まり」の概念がないとか(笑)。

藤井:「外乱」とは何ですか?
:例えばですが、天気だったり環境の温度・湿度だったり、機械のノイズとか劣化とか、そういうものですね。装置内外のわずかな変化によって、製品が思ったように作られないということが起きます。要求された資源を流せば必ず狙った数の製品ができる、というのがゲームの世界ですね。自動化ゲーム好きからすると、工場の中の予期しないところからトラブルが襲ってくるような、そういったゲームがあればやってみたいですね。

藤井:ありがとうございました。

ご相談・ご依頼

ソシオメディアは、監視・制御系システムのUIデザインをご支援します。お客様の事業内容、システム概要、開発体制、予算、課題認識などに応じて個別にご提案を作成します。また、今回ご紹介したようなUIデザインについての社内セミナー実施も承っております。まずは問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。担当の者より折り返しご連絡いたします。