ユーザーエクスペリエンスの測定

– UXメトリクスの理論と実践 –

トム・タリス、ビル・アルバート(著), 篠原稔和(監訳), ソシオメディア株式会社(訳)
東京電機大学出版局;2014年11月10日;ISBN 978-4-501-55290-9;4,860円(税込);344ページ

ユーザーエクスペリエンスの測定 表紙
出版元の書籍紹介
本翻訳の原書は、2008年に出版された『Measuring the User Experience』の第1版です。その後、同書の第2版(Second Edition)が2013年に出版されています。第2版において追加された内容について、下記ページでそのポイントを解説しています。
『Measuring the User Experience』第2版 のポイント

本書の目的

"この本の目的は、どんな製品のユーザーエクスペリエンス(UX)を評価するうえでも、ユーザーエクスペリエンスのメトリクス(UX メトリクス)がとてもパワフルなツールになるという事実を示すことにある。UXメトリクス、つまりUX を評価するための数的指標と聞いただけで、複雑な計算式や矛盾する調査結果、高度な統計手法のことを考えて、気後れしてしまう人もいるかもしれない。でも、私たちの狙いは、たくさんの調査結果に見られる誤解を解き、UXメトリクスの実践的な応用方法に焦点を当てることにある。

この本では、UXメトリクスを収集し、分析し、その結果を報告するまでのプロセスを、ステップ・バイ・ステップのやさしいアプローチで示していく。それぞれの状況や用途に合った正しいメトリクスの選び方から始め、それらのメトリクスをどのように使えば、信頼性のある実用的な結果が出せて、しかも予算内に収められるかを、説明していく。さらには,さまざまなUXメトリクスを分析するにあたってのガイドラインやコツも紹介し、他の人に対してUXメトリクスを紹介するにあたってのシンプルで効果的な方法の事例もたくさん取り上げていく。"

(本書「第1章 はじめに」より抜粋)

"企業や各種団体といった組織において、「製品やサービスのユーザーエクスペリエンス(UX:ユーザー体験/利用者体験)を向上させるための諸活動や諸施策を実施するか否か、どこから何を実施すればよいのか」といった意思決定に関わる課題は,UX の重要性が強調されることと同時に始まって、なかなか決定的な解決策を見いだせないままの状況が続いていました。そもそも,企業経営や組織マネジメントにおいて、一定の目標を達成するために、最も合理的な選択と判断を行うための材料を用意することができなければ、最善の意思決定を行うことなどできません。その際の重要な判断材料を提供してくれるのが、まさに本書のタイトルにある「UX メトリクス(UX Metrics)」といった理論であり、実践のための手法なのです。"

(本書「監訳者まえがき」より抜粋)

本書の読み方

本書の読み方について、読者の方々を3つのタイプに分けて紹介していきます。

"まず、実務家の方々には、ぜひとも、最初に「第11 章」を読んでもらいたいと思います。その後,「第1章~第3章」の背景となる基礎知識をおさえたうえで、「第4章~第9章」の「UXメトリクスの本論」にチャレンジするとよいでしょう。また、「第11 章」を読むことで「UX メトリクス」を通じて組織に貢献するためのイメージとステップを描いてください。そして、特に「第4 章~第9章」の骨太の内容をマスターしようとしてくじけそうになった場合には、常に「第11 章」で描いたイメージとステップに立ち戻ってみてはいかがでしょうか。最終的なゴールとしては、自社組織にあった「UXメトリクス体系」の構築とその実践にぜひとも活かしていただきたいと考えます。
ポイントは、「11.2 小さく産んで大きく育てる」です。企業の上層部に本価値を伝えるうえで大事なことは、「第4章~第9章」の内容を下敷きにした日頃の活動の実践に加え、「11.10プレゼンテーションをシンプルにする」にあります。特に、初めて上層部に価値を伝えなければならない実務家の方にとっては、各内容をマスターしたうえで、「11.1 UX とメトリクスのパワーを売り込む」に取り組むことが有効です。UX活動の現場に、上層部を引き連れて体験を促すことは、昨今のビジネスにおけるワークショップブームにも現れています。ただし、昨今のブームのように、体験と創発によって過ごした時間だけに満足して終わることなく、実際の成果に結びつけるところに重点を置いていくことがポイントです。

次に、専門家の方々には、「第1章」からしっかりと読み進めてもらいたいと思います。特に、「第4章~第9章」の本論をしっかりとマスターして、経営の分野とUXの分野とを橋渡しする指南役になってください。既存のUX活動、ユーザビリティ活動・HCD活動を、各組織に最適化する活動を指導すると同時に、「UX メトリクス」を埋め込んだ活動を習慣化し、その内容を経営サイドに効果的にレポートする方法などを、ぜひ実践いただきたいと思います。例えば、著者は、経営層に「UX メトリクス」の価値を効果的に伝える手段として、実際の活動成果を「短いビデオクリップ」にまとめることを推奨しています。ただし、この諸活動の成果を短くまとめるためには、数多くの実践と勘所が要求されます。つまり、効果的なビデオ作りなどにも積極的に関与してみることで、これらの勘所がご自身のものになるのです。

最後に、業界を牽引するリーダーの方々には、上記の二者の読み方を構造的に理解したうえで、「第10 章」のケーススタディを通して、この本の内容をマスターしていってはいかがでしょうか。そして、自らのケースをストーリーとしてまとめるための参考にし、最終的には新たなオリジナルのケースを追加していってもらいたいと思います。なお、第2版で展開されている最新の事例や、各種国内企業における事例を発表する場については、監訳者の所属している企業(ソシオメディア(株))や団体(人間中心設計推進機構(HCD-Net))においても紹介・展開していく予定です。そちらにもぜひ、積極的に参加してください。"

(本書「監訳者まえがき」より抜粋)

目次

  • 著者について
  • まえがき
  • 日本の読者のみなさんへ
  • 謝辞
  • 監訳者まえがき
  • 第1章 はじめに
    • 1.1 この本の構成
    • 1.2 ユーザビリティとは何か
    • 1.3 なぜUX が重要なのか
    • 1.4 UX メトリクスとは何か
    • 1.5 UX メトリクスの価値
    • 1.6 UX メトリクスについての10 の誤解
  • 第2章 背景となる情報
    • 2.1 ユーザビリティ調査の設計
    • 2.2 データのタイプ
    • 2.3 メトリクスとデータ
    • 2.4 記述統計
    • 2.5 平均値の比較
    • 2.6 変数間の関係
    • 2.7 ノンパラメトリック検定
    • 2.8 データのグラフ表示
    • 2.9 まとめ
  • 第3章 ユーザビリティ調査の計画
    • 3.1 調査の目的
    • 3.2 ユーザーの目的
    • 3.3 正しいメトリクスの選び方:10 種類のユーザビリティ調査
    • 3.4 その他の調査の詳細
    • 3.5 まとめ
  • 第4章 パフォーマンスメトリクス
    • 4.1 タスク成功率
    • 4.2 タスク時間
    • 4.3 エラー
    • 4.4 効率
    • 4.5 学習可能性
    • 4.6 まとめ
  • 第5章 問題点に基づいたメトリクス
    • 5.1 ユーザビリティ問題の特定
    • 5.2 ユーザビリティ問題とは何か
    • 5.3 問題の特定方法
    • 5.4 深刻度の評価
    • 5.5 ユーザビリティ問題のメトリクス分析と報告
    • 5.6 ユーザビリティ問題の一貫性
    • 5.7 ユーザビリティ問題の偏向
    • 5.8 参加者の数
    • 5.9 まとめ
  • 第6章 自己申告メトリクス
    • 6.1 自己申告データの重要性
    • 6.2 自己申告データの収集
    • 6.3 タスク終了後の評価
    • 6.4 セッション終了後の評価
    • 6.5 デザイン比較のためのSUS の使用
    • 6.6 オンラインサービス
    • 6.7 その他のタイプの自己申告メトリクス
    • 6.8 まとめ
  • 第7章 行動・生理メトリクス
    • 7.1 顕在的な行動の観察とコード化
    • 7.2 観察するための機器が必要な行動
    • 7.3 まとめ
  • 第8章 統合・比較メトリクス
    • 8.1 統合的なユーザビリティスコア
    • 8.2 ユーザビリティスコアカード
    • 8.3 目標値および熟練者のパフォーマンスとの比較
    • 8.4 まとめ
  • 第9章 特別なトピック
    • 9.1 稼働中のウェブサイトのデータ
    • 9.2 カードソートのデータ
    • 9.3 アクセシビリティに関するデータ
    • 9.4 ROI(投資収益率)のデータ
    • 9.5 シックスシグマ
    • 9.6 まとめ
  • 第10章 ケーススタディ
    • 10.1 安価で手早いウェブサイトのデザイン変更(執筆者:Hoa Loranger)
    • 10.2 音声認識インタラクティブ応答システムのユーザビリティ評価(執筆者:James R. Lewis)
    • 10.3 ウェブサイトCDC.gov のデザイン変更(執筆者:Robert Bailey,Cari Wolfson,Janice Nall)
    • 10.4 ユーザビリティのベンチマーキング:モバイル音楽・ビデオ(執筆者:Scott Weiss,Chris Whitby)
    • 10.5 薬品ラベルのデザインと類似性が薬剤師のパフォーマンスに与える影響の測定(執筆者:Agnieszka (Aga) Bojko)
    • 10.6 メトリクスの有効活用(執筆者:Todd Zazelenchuk)
  • 第11章 さらに前進するために
    • 11.1 UX とメトリクスのパワーを売り込む
    • 11.2 小さく産んで大きく育てる
    • 11.3 時間と費用を確保する
    • 11.4 早めに何度も計画を立てる
    • 11.5 製品のベンチマークを確立する
    • 11.6 データを吟味する
    • 11.7 ビジネスの視点を持つ
    • 11.8 自信を見せる
    • 11.9 メトリクスを誤用しない
    • 11.10 プレゼンテーションをシンプルにする
  • 監訳者あとがき
  • 参考文献
  • 索引